叡王戦本戦 渡辺(大)ー菅井戦

渡辺大夢五段は予選から4連勝でここまで勝ち上がってきています。

本戦トーナメント2回戦で佐藤名人に頓死を食らわせて大逆転勝ちの将棋が鮮烈でしたね。

菅井竜也七段も本戦で羽生竜王、行方八段と強敵を連続で破ってきています。

そして振り駒で菅井先生の後手番、こうなると戦型を期待せずにはいられないですね。

初手から
▲26歩 △34歩 ▲25歩 △33角 (第1図)

やはり、と言うべきか。

例によって菅井先生対策に3手目25歩を持ってきました。

第1図から
▲76歩 △42銀 ▲48銀 (第2図)

さあここが一つ目の注目ポイントです。

菅井先生は振り飛車で挑むのか、居飛車で戦うのか。

△84歩 ▲33角成 △同銀 ▲88銀 (第3図)

菅井先生は居飛車で戦う意志を見せました。

渡辺先生も時間を使わず33角成。

そして迎えた第3図は例の局面

3手目25歩に論理はあるか(5) (昨日の記事)

ここで22飛と回れないかというのが昨日の記事のテーマでした。

淡い期待を抱いてはみましたが

第3図から
△72銀 ▲77銀 △83銀 ▲36歩 (第4図)

まあ世の中そんなに上手いことは出来ていません。

私が昨日話した手を、菅井先生が今日公式戦で指すなんてそんな夢みたいな話はありません。

それにしても後手の83銀はどうも妙な感じです。

これはひょっとして…?

第4図から
△22飛 (第5図)

またまたやってくれました!

陽動角交換振り飛車とでも言いましょうか。

角交換振り飛車を嫌う3手目25歩に角交換振り飛車をかますさまは何度見ても痛快ですね。

ここで65角が気になりますが74銀43角成52金右で馬が御用です。

65角が打てないとなれば先手は駒組みを進めるしかありませんが、72金と締まれば後手陣はもう安泰、以下二手得を頼りに悠々と駒組みを進めます。

とは言ってもあくまでそれは理屈の話、気分と条件は良いですが実際に指せばもちろん一局です。

そして渡辺先生も面白い駒組みを見せてくれます。

局面を進めます。(第6図とします)

右辺はそれほど違和感がないですか66銀が一風変わった一手。

先手の狙いは何処にあるのでしょうか。

第6図から
△63金左 ▲86歩 △74歩 ▲77桂 △33桂 (第7図)

77桂まで進んで先手の構想が見えてきました。

これは次に89飛の地下鉄飛車を狙っています。

実はこの駒組みはアマチュアの間では有名な角交換振り飛車対策で、ここ一年ぐらいで市民権を得てきた印象です。

38金型で角打ちの隙をなくして玉頭方面でポイントを上げようという発想ですが、玉が薄くなりやすく、指しこなすのはなかなか難しいところです。

対して菅井先生の33桂が波紋を呼ぶ一手。

先手には56角の手段が生じています。

第7図から
▲56角 △54角 ▲34角 △76角 ▲56銀(第8図)

誘われているようですが渡辺先生は堂々と56角、当然菅井先生も想定内で54角が切り返しです。

43角成を防ぐと同時に76角で一歩を取り返して8・9筋からの攻めを見ています。

以下35歩45歩から戦いとなりました。

局面を進めます。

先手の桂得ですが玉の安定度に大きな差があり難しい局面です。

この95歩に同歩は98歩があるので68桂などが予想されていましたが渡辺先生はなんと同歩と取り、以下98歩85歩で玉頭から襲いかかりました。

局面を進めます。(第9図とします)

激しい攻め合いとなってこの局面が本局のハイライトです。

先手玉は右辺が広くて捕まえづらく、後手玉への攻めは分かりやすいので後手苦戦かとも思いましたが、次の一手が好手かつ決め手でした。

第9図から
△26香 (第10図)

空間に放り込んだ26香が絶妙手。

5分の考慮時間で放たれていることから見ても、随分前から狙っていたものだと思われます。

第10図から
▲同飛 △38歩成 ▲43歩成 △96馬 ▲58玉 △78馬 ▲48金 △37金 ▲同金 △同と まで(投了図)

以下は手続き、96馬が詰めろで入っては勝負ありです。

菅井先生が抜群の切れ味で寄せ切りました。

最後に一局を振り返ってみます。

序盤は3手目25歩に対し菅井先生がまたもユニークな順で角交換振り飛車を実現。

谷川戦に続いて3手目25歩を完全に咎めていると言っていいでしょう。

そして渡辺先生も注目の駒組み、地下鉄飛車こそ実現しませんでしたが有力な対策であることは間違いなさそうです。

中盤以降は難しい戦いで先手の玉頭攻めもかなりの迫力でしたが、終盤の26香一発で菅井先生がKOした印象です。

さあ3手目25歩に対し菅井先生は角交換振り飛車で2連勝。

そろそろ先手も3手目25歩を使いづらくなってくるんじゃないでしょうか。

そして26歩34歩に76歩と角が向かい合ったとき、そこは菅井先生の土俵です。

次はいったいどんな新構想を見せてくれるのか。

一ファンとして、菅井先生の今後の活躍がただただ楽しみです。

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この記事を書いた人

徳島の将棋好き
"急戦で先攻する"が信条
33金型早繰り銀の開発者

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