横歩取りは後手良しであって欲しい
青野流が猛威を振るい、プロ間でかなり数が減っていた横歩取りが最近見られるようになってきています。
水面下で後手に戦える手順が見つかったのか、定跡の最前線がどうなっているのか等は到底私の理解が及ぶところではないので、今回の記事は私の妄想です。
横歩取りは数ある将棋の戦法の中でも「序盤に駒の損得が発生する」というかなり特異な性質を持っています。
すなわち角換わりや相掛かりとは違い、横歩取りには「歩得vs手得」という明確なテーマが存在していると言えます。
したがって34飛と横歩を取った時点で局面の優劣が付いている可能性があるのです。
それが「後手良し」であって欲しいというのが私の願いです。
以下は横歩取りが後手良しとなった世界のお話です。
よく見慣れた15手目のこの局面、34飛と横歩を取るのは後手良しです。
したがって先手は他の手を考えなければなりません。
何を指すか難しいので試しに96歩と端でも突いてみましょう。
さて今度は後手が考えます。
76飛と横歩を取る手が見えます。
しかし76飛の局面は先手が34飛と横歩を取った局面をひっくり返したものにそっくりです。
唯一の違いは96の端歩ですがこれが先手にとってマイナスの手になる可能性は低そうです。
であるならば「横歩取りは後手良し」なので、76飛とした局面は先手良しになります。
ということで後手は横歩を取れません。
指す手も悩ましいので94歩と礼儀正しく挨拶を返しておきましょう。
さてまた先手に手番が回ってきました。
先程と比べて96歩94歩の交換が入っています。
「横歩取りは後手良し」でしたが、9筋を突き合ったことで将来95歩同歩92歩の攻めが利いたり、後手からの95角が無くなったりでここで先手は34飛と取れる可能性があります。
ただちょっと不安です、かなり研究して9筋の突き合いを確実に活かせる自信がないと34飛とは選びにくいでしょう。
どうせ後手からも76飛は難しいのでプラスの手を指して待ってみたいところではあります。
58玉はプラスになりそうなのでそれで待ってみましょう。
ここで後手はいろんな手がありそうです。
76飛と取るのは77角と上がられて58玉の一手がプラスに働きます。
88角成同銀33角の強襲は考えられ、かなり激しい展開へと進みます。
待つ手も色々あって、14歩や52玉、42玉に72銀、74歩なんて手もあるかもしれません。
こんな風に先後どちらにも多くの待つ手があって、その組み合わせは膨大な数になります。
そしてお互いに何手か待った局面では、先後どちらにも横歩を取れる可能性が十分にあります。
結果として横歩取りの序盤の可能性が爆発的に増加します。
ところで皆さん、似たような話を最近聞きませんでしたか?
そうです、相掛かりです。
この局面、ついこの間までは24歩と交換する一手でした。
ところが24歩を保留して銀を上がったり、端を突いたり、玉を上がったりする手が出てきて、相掛かりの序盤が急激に多様化し、プロの実戦例も大幅に増えることになりました。
相掛かりにおける革命とも言える出来事ですが、全ては当然に見えた24歩を保留したところから始まっています。
「横取りが後手良しの世界」ではこれと同じことが起こります。
横歩を取る手を保留し、少しでも得な手を積み重ねた上で横歩を取れるように駆け引きが生まれます。
しかも角が向かい合っている関係で、激しい変化を無数に孕む格段に緊張感の高い局面が続く中でです。
わくわくしませんか?
今まで誰も見たことがない、新しい局面が無数に生まれるのです。
そんな世界で戦ってみたい、その世界が誰の気にも留められず沈んでいくのは余りにも惜しい。
横歩取りは後手良しであって欲しい。
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